熊本地震では、避難後に店舗へ戻った従業員や関係者がいたことが報道されました。これは特定の人の問題ではなく、災害時に多くの人が陥る「戻り行動」と呼ばれる心理現象です。本日は、災害時に人が、戻ってしまう心理について整理し、どのように防ぐべきかを考えてみます。
1.誰にでも起こる人間の自然な心理
火災、地震、津波、爆発などの災害時には、 避難したにもかかわらず、
〇 荷物を取りに戻る
〇 職場に戻る
〇 自宅に戻る
〇 状況を確認しに戻る
という行動が世界中で発生します。これは、弱さでも無責任でもなく、人間の心理が強く影響している自然な反応です。実際に、東日本大震災の時、私は東京の勤務先にいましたが、その日の夜に電車が動き出す前に近くに住む同僚と二人で歩いて家に帰りました。
2.戻ってしまう心理
① 正常性バイアス
「自分だけは大丈夫」「いつも通りのはず」という思い込み。災害時に最も強く働く心理で、危険を過小評価してしまいがちです。
② 所有物バイアス
自分の荷物・店舗・職場・家財を守りたいという心理。人は、自分のものに強い執着を持つため、危険を承知で戻る傾向があります。
③ 役割責任バイアス
「自分が確認しないと」「自分が戻らないと仕事が止まる」という責任感。真面目な人ほど戻ってしまう傾向があります。
④ 安心確認行動
本当に危険なのか、自分の目で確かめたいという心理。危険を確認したい欲求が、戻り行動を誘発するようです。
⑤ 群集心理
誰かが戻ると、自分も戻ってしまう。災害時は、周囲の行動が判断を支配するため、戻り行動が連鎖します。
戻り行動は、個人の性格ではなく、心理の構造で起こると考えられます。自分に置き換えて考えても、これらの心理に当てはまることが多いです。
3.戻り行動が危険な理由
調べてみたところ、戻り行動は、災害時の行動の中でも危険度が高いようです。
〇 ガス漏れ → 爆発
〇 余震 → 建物・付属設備の倒壊
〇 火災 → 煙による窒息
〇 津波 → 再来波による流出
〇 群集 → 二次災害の誘発
イオンモール熊本の爆発は、避難後に戻るという行動がどれほど危険かを示した象徴的な事例になってしまいました。
4.組織でも戻ってしまう人が出る理由
企業や団体においても、戻り行動は発生します。これも、個人の問題ではなく、組織の構造で発生するようです。
〇 マニュアルが曖昧
〇 災害時の行動教育が不足
〇 権限構造が強く、上司が戻ると部下も戻る
〇 戻らねばならない個人の理由がある
〇 確認してから帰れという文化
〇 避難訓練が形式的
〇 戻ることが危険だという認識がない
戻り行動は、組織文化と教育の不足で発生するのかも知れません。但し、個人や家族の事情で、どうしても自宅に戻らねばならない事情がある方も存在します。戻り行動には新たなリスクがあるということを教育でカバーし、危険と認識した上で、個人の判断が必要と思われます。
5.組織が整えるべき仕組み
災害時の行動は、教育と仕組みで一定程度は防ぐことができます。
〇 避難後は絶対に戻らないルールを明文化しておく
〇 避難した場所や勤務先建物が耐震構造なら、安全度が高いと明記する
〇 ガス漏れ・爆発・余震の危険性を教育する
〇 避難後の行動を見える化する
〇 上司が率先して戻らない行動を示す
〇 避難訓練に戻り行動禁止を組み込む
〇 正常性バイアスを理解させる心理教育を行う
戻り行動は、教育と仕組みで一定程度は防げると思われます。
6.他山の石として学ぶ
今回の熊本地震は、戻り行動の危険性、行動教育の必要性、マニュアル見直しの必要性、付属設備の倒壊リスク、ガス漏れの危険性などを一気に浮き彫りにしました。災害時の行動は、命と組織を守る最後のコンプラです。戻り行動の心理を理解し、組織として防ぐ仕組みを整えることが、 次の災害で命と事業を守る方法だと感じています。
まだ暑い日が続きます。被災者の皆様が一日でも早く、普通の生活に戻れることをお祈り申し上げます。



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