生命保険は、損害保険とはまったく異なる構造を持っています。損保は事故率や災害率という短期のリスクに左右されますが、生命保険は死亡率・医療費・長寿化という長期のリスクが中心です。そのため、損害保険のように保険料が急激に上昇することはなく、損害率も数十年にわたり安定して推移してきました。しかし、この10年間で、募集品質は大きく変化しました。その背景には、高齢化・チャネル多様化・規制強化という要因があります。
1.高齢化が変えた
昭和〜平成初期は、定期付き終身保険の販売が主流でした。その定期保険部分に満期を迎えた契約者が、ここ10年で一気にシニア世代へ移行しました。
〇 シニア世代は死亡保険のニーズが低く、高額な保険のニーズはない
〇 医療保険も加入済みで、新たなリスクに対する販売余地が小さい
つまり、営業職員、コミッションセールス、代理店にとって売る商品がない状況となり、人口の3分の1を占めるシニア世代は、販売ターゲットになり得ません。
2.販売チャネルの多様化
生命保険の販売は、長らく営業職員が中心でした。しかし、この10年で、来店型チョップ、完全コミッションセールス、銀行窓販、ネット型生保という4つの新たな販売チャネルが台頭してきました。比較サイトの利用増加もあり、営業職員のシェアは59%台 → 50%台へ減少しました。数少ない若年層やファミリー層の奪い合いが過熱してきました。
3.業法改正で属人化の限界が露呈した
2014年の保険業法改正以降、生命保険の募集品質は大きく変わりました。
〇 意向把握義務・情報提供義務の厳格化
〇 インセンティブ構造の見直し(ボーナス代理店手数料へのシフト)
〇 記録管理の厳格化
これに伴い、生命保険の募集品質は、属人的な営業から、組織的な管理体制へ移行を余儀なくされました。特にボーナス代理店手数料は、個人募集人に不利で、募集人数の多い代理店に圧倒的有利な制度です。募集人数が多ければ、それだけ拠点数も多くなり、急な全国展開も相まって、管理態勢が脆弱な大型ショップ代理店が急増し、それらが生命保険会社の主力販売チャネルとなったことにより、業界絵図が大きく変わりました。
4.募集品質はどう変化したか
その結果、若年層やファミリー層を主な顧客とするショップ型代理店が、新規契約のシェアを高める一方で、規模拡大でボーナス代理店手数料を最大化したい経営者が教育を怠り、生命保険の募集品質は向上したとは言えない環境下にありました。完全コミッションセールスのチャネルは、ノルマと新規件数の達成を求められ、成績至上主義が復活しました。一方で、主力商品は比較的説明が簡単な商品だったことから、募集品質の低下が表面化することは、ありませんでした。
生命保険会社は、損害保険会社に比較して業界変化の波が少なかったことから、昭和時代の営業スタイルが長く続いた結果、時代の流れに取り残されて、コンプラアンス経営の感覚が遅れていたと思われます。
5.生命保険固有の特徴
損害保険は事故対応・更新などの接点が多いため、比較的早く募集品質の改善取組みが始まりました。一方、生命保険は、契約期間が長く、契約後の接点が少なく、保有契約に対する指標が少なく、接点の記録が残りにくいなどの構造的理由で、募集品質の改善が進まなかったと言えます。
6.今後の生命保険の募集品質
(1)記録管理の義務化が進む
AIによる説明記録、意向把握の自動化、お客様の声のリアルタイム分析が、大きく進展すると考えられます。システム化がキーポイントになります。
(2)営業職員の役割の変化
商品販売業務より、ライフ・アドバイザー業務が中心になると考えられます。必要なのは、ライフプランや金利に関する相談、公的保障との関連業務です。
(3)大型ショップ代理店の競争激化
ショップ型代理店市場は既に飽和化しており、業務の統一化と専門性強化ができる代理店だけが選別される時代に入ります。比較推奨のプロ化、記録管理の標準化などのシステムを伴う体制整備が急務です。
<まとめ>
生命保険の募集品質は、損害保険とはまったく違う進化をしてきました。次の10年は、さらにお客様本位の募集品質が求められる時代になります。システム化、標準化・統一化を体制整備できる販売チャネルだけが生き残る時代に入ります。金利復活を機に、変額保険や運用商品を中心に販売するコミッションセールスは、不祥事リスクも抱えていることから、セールス給与体系の見直しを行うことにより、急激に弱体化する可能性もあります。誠実に、確実に、システム化や業務統一化に取組めるチャネルだけが、お客様本位の業務運営に軸足を置いた事業活動ができるはずです。
保険会社は代理店、営業職員、コミッションセールスに対し、このような話を真摯にできる環境下にないことから、恐らくどの会社も語らないと思われます。いつまでも、保険会社の甘い言葉、ステイタス表彰などに魅力を感じていると、時代の変革に取り残される可能性があることを肝に銘じて、次の一手を考えて行って欲しいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。



コメント