大手中古車販売店が、事故車両の修理を水増しして、保険金を不正に詐取した事件について、金融庁が代理店委託をしている保険会社に対し、報告徴収命令を発しました。本日は、保険会社が検討し得る再発防止策について、考えてみます。
当該販売店では、過度な修理目標を設定し、従業員を責め立てて追い込む風土があり、内部統制や監査などのけん制機能や、従業員が相談する為の仕組みは、ありませんでした。従業員からすると、社内外に自分を助けてくれる制度や仕組みがないことが、発生原因の一つです。
また、保険会社は、事故の報告を受けた際、当該販売店へ修理入庫を誘導していました。従業員からすると、修理目標を達成する為に、保険会社は協力してくれる存在です。更に、保険会社からの出向者がいることも、保険会社との関係が深いと考え、不正行為へのハードルを下げたと思われます。
最初のうちは、保険会社は気付かないことが多く、疑われなかったことから、次第に常態化していき、水増し金額も大きくなります。目的は、毎月の修理目標の達成ですから、一過性ではなくなります。時間が経過するうちに、行為が社内で情報共有され、多くの店舗が不正に手を染めることになります。そうなると、従業員の理性や倫理観は、吹き飛んでしまいます。
上記の発生原因を基に、再発防止策を講じるとすれば、以下のとおりです。一つ目は、修理業者との関係の見直しです。具体的には、入庫誘導制度の廃止です。お客様には、優良な業者を紹介すると言い、一方で保険会社は当該業者より弱い立場にあり、要請を受けて行っている制度だからです。
保険会社社員の出向制度の見直しも、課題となります。保険会社は大企業であり、従業員教育や内部統制もしっかりと行われています。一方、出向先の多くは、中小企業であり、従業員教育や内部統制環境が十分でないことが多く、環境が違い過ぎるからです。
次に、不正行為をけん制する態勢の見直しです。例えば、修理見積書に記載した新品交換部品のうち単価が高い部品には、交換取付後の写真の提出を求める、または、取り寄せた部品の明細や、社内計上明細の提出を求める対策です。業務ロードの増加になるので、対象は絞っても構わないと思われます。また、修理平均単価が高い業者をAIで抽出し、モニタリングを実施する対策です。例えば、修理完了日に保険会社のアジャスターが訪問して見積書通りの修理が行われたかを確認します。
最後は、早期発見と不正の大型化対策です。修理業者の従業員が、不正行為に気付いたとしても、社内の環境が原因で、当該従業員も不正に巻き込まれることを避ければ、対策となり得ます。例えば、修理業者の従業員向けに、ホットライン通報制度を新設する対策です。競合する修理業者から、ガセ通報が行われる可能性もあるので、通報イコール悪い業者ではないことを事前に説明しておく必要があります。比較的規模が大きく、多くの拠点を持つ修理業者に限定することで、構わないと思います。
今回の事件の根幹には、不正を行わざるを得ない環境に置かれた善人が、不正に手を染めて、常態化してしまうことにあります。修理業者側に、組織改革や多くの対策を求めることは現実的ではないことから、保険会社は、修理業者と一定の距離を置く関係に戻さない限り、こうした事件は、自動車保険に限らず、他の保険でも発生すると思われます。保険会社としては、一刻も早く、信頼を回復する対策を講じることが、求められています。



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