業務改善命令

a children clapping together

大手保険会社が、保険金不正請求の可能性が高いと認識しながら、修理業者兼代理店との取引を再開した行為と、当該代理店に出向している自社従業員からの報告を放置して被害の拡大を招いた行為に対し、金融庁より業務改善命令を受けました。本日は、その原因となった事象について、考えてみます。

修理業者が自社代理店である場合、保険金支払い部門は営業部門と情報を連携します。各種法令違反に抵触する可能性があれば、本社へ報告を行う必要があります。修理業者が代理店を兼営している場合、修理業者としての行為でも、法人として不祥事の届出を行う義務を負うからです。

今回は、修理業者としての行為に留めたことが、要因と思われます。修理業者の行為であっても、法人としては代理店を営んでいるので、保険会社の本社コンプライアンス担当部署にて、法人としての行為の判断を行うという基本動作が、なされなかったことも要因になりました。

また、不正請求の可能性が高いと認識しながら、担当役員による協議で判断したことも、要因と思われます。出席者を限定した会議で議論を行うことは大切なプロセスですが、稟議や決裁という判断は、職務権限を持つ部署の責任者が行えば、誤った判断を避けられた可能性があります。

加えて、社長の認識も、要因になりました。競合他社の社長より、当該代理店が疑わしい行為を行っている件について、直接話を受けた後、自社の担当役員へ確認した際、他社の社長の認識と自社担当役員の認識が異なるのに、根拠なく自社の担当役員の意見を信じたことが、その後の判断誤りに大きな影響を与えていたはずです。既に競合他社が社長の耳に入れている情報が、自分には入っていないならば、自社の報告基準が適切に運用できていないのではないかと疑うべきでした。

更に、役員協議の場で、疑いが晴れないうちは、慎重に対応すべきという認識をもつ役員がなく、上司の意見に対し、常識で反論できなかったことも、判断誤りを招く要因になりました。その一方で、当該代理店へ出向している自社従業員から疑わしい行為を隠ぺいしようとしていると連絡があった際に、担当部署が本社へ報告しなかったことも、誤った判断の要因になりました。

こうした複数の要因が重なり、疑わしい業者兼代理店との取引を再開してしまいました。「バッドニュースこそ、上司が褒める」「判断する時こそ、上司の意見より常識を優先する」などの職場環境の見直しが必要になるでしょう。

お客様からのご不満の声、出向従業員からの報告、競合他社の社長の意見、保険金支払い部門のデータ、このいずれもが、自社の正しい判断を構成します。保険会社でなくとも、経営判断ミスを起こさない為に、このケースを活用して、取締役会などの場で意見交換しておくことが、予防策となると思います。

コメント