大手重工業企業において、取引先官庁職員に金品の提供を行っていた旨、報道がありました。その原資は、下請け会社との間で架空取引により、7年間で17億円近くを捻出していました。本日は、取引顧客への金品提供について、考えてみます。
この事件は、大きく二つの要素で考えることが可能です。一つは、社内業務の異常実態です。取引顧客への金品提供の実態、社内で常習化した背景、下請け企業との架空取引、資金の社内プール状況、他の使途への転用などです。もう一つは、法令違反をベースに考えることです。
前段は、主に自社の不祥事担当部署または立ち上げた調査委員会や第三者委員会を通じて調査すべきであり、後段は、顧問弁護士への相談を中心に据えるべきです。この二つの調査は並行して行われるべきで、無理に一つにしようとすると、企業は過ちを起こしやすい傾向にあり、誤ると二次災害に発展します。
一般企業の従業員や管理職は、官庁職員に対する金品提供禁止や、架空取引を行い社内資金を作ることが就業規程違反であることは、十分に承知しています。事件が起こるには、違反のハードルを下げさせた業務実態があるはずです。その部分を掘り下げて調査しないと、再発防止策がヒットしません。
官庁職員に対する業務活動において、一緒に飲食したり、手土産を渡すなどの業務実態がないかを確認するところから始めます。この程度なら大丈夫というハードルは、時間の経過によりエスカレートして、常態化していき、ハードルすら見えなくなるというのが一般企業の慣習です。
そうなると業務活動費が足りなくなります。そこで、下請け会社への上乗せ発注を行い、過剰に送金された金員を出金してストックする発想が生まれたはずです。これは、管理職が関与しないとできない事象ですから、管理職を疑う必要があります。
一般の企業には、下請け企業から受領した金額に誤りがある場合、返金作業にはマニュアルがあります。返金した金員が、マネーローンダリングされることを防ぐためです。従業員が個別に出金する仕組みがあるのであれば、廃止することで、出金してストックする仕組みを防止する手段になります。また、返金先口座は、あらかじめ登録した取引企業のメイン口座以外には送金できない仕組みに変更することも対策になります。
しかし、事件というのは、必ずしも自社内の役職員だけで長期間続けることは、難しいものです。この場合、上乗せした請求書と知りながら、社内決済を承認した共犯者がいるはずです。また、下請け企業へ支払った金員を何らかの手段で回収してストックするには、下請け企業の担当者を巻き込む必要があります。下請け企業の担当者へ金品の提供や接待行為がなかったかまで、確認すべきでしょう。
社内で資金をプールした実態にも、調査が必要です。当該企業は戦艦や潜水艦の修理を請け負うことが多いことから、潜水艦内に隠していた可能性があります。官庁の所有物内に隠せば社内監査の対象にならず、安全だと知っていた可能性があります。社内監査の範囲や監査の視点も、新たに見直す必要があることは、ご理解の通りです。
こうやって、少しずつ紐解いていくと、一つの事件には多くの背景と関係者があり、社内外における事業活動が少しずつ腐敗していった経緯が、判明してきます。その実態と経緯から目を背けずに、冷静に解明していく企業だけが、信頼を回復する権利を得ます。
他社で起きた事件は、必ず自社に置き替えて考える習慣を付けましょう。コンプライアンス経営が続かない企業は、経営者にその考え方がない場合が多い傾向にあります。今調査すれば、腐敗の途中でストップできますが、行き着くところまで行ってしまうと、事件として報道されます。早期発見の力は、他社の事件が教えてくれるのです。
本年も一年間、お読みいただき、誠にありがとうございました。限られた字数を活用して、できるだけ趣旨が伝わるように書いてきましたが、いかがだったでしょうか。2025年が、皆様にとって明るい年になることを心よりお祈り申し上げます。良いお年をお迎えください。



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