公立病院が行った職員アンケートで、職場でパワハラを受けたり見聞きしたとの回答が多数寄せられました。管轄の市区町村が職員へ実態を把握すべく聞き取り調査を開始した旨、報道がありました。本日は、院内ハラスメントについて、考えてみます。
アンケートで把握したパワハラの内容は「入院患者が亡くなった際に上司からあんたが殺したと言われた。説明もなく突然に担当部署を外すと指示があった。上司に挨拶したら返事がないので再度声を掛けたら無視された。上司にパワハラだと言ったら怖い人がいないと緊張感がなくなると聞き流された。」などです。
当該病院では、看護職の中途退職が相次いでおり、複数の退職者が報道の取材に対し、ハラスメントが原因と証言したそうです。被害者がハラスメントと申し出たら、疑うのが原則です。調査担当者は、証言者が所属していた部署のメンバーにヒアリングし、同様の発言があれば、ハラスメントと判断すると思われます。
一般的に病院は、国家資格者で部署や組織を構成し、理事長が経営を担い、病院長や診療・事務部門のトップが態勢を司る組織です。大学病院では、研究医や大学教授もいるなど、多くの異なる分野で働く人で構成されています。
その上、医師、看護職、事務局長、研究医、教授は、絶えず他の病院や医療施設からスカウトされるリスクを持つ職業です。外部から見ると、ノーマルでない経営方式と業務運営であり、業務スキームの実態は、各組織任せにしているように見えます。
更に、役職上位者と医師職は、職責の中にパワハラの要素を持ち合わせていると思われます。病院を辞めても他の職場にスカウトされたり、開業を検討するなど、職業を失う危険が少ない専門職です。それゆえ業務中は、特に心理的安全性が担保されています。
こうした組織に所属している人にコンプライアンス研修やハラスメント研修を行う場合は、一般企業とは異なる環境や取り巻くリスクがあることを理解していただく必要があります。
高い地位や専門的知識を持つ人に対し、貴方はパワハラの加害者になる要素がある、看護師等は育成すべき部下として接するべき等を伝えたとしても、恐らく職場環境を知らない素人が何を言うのかと考えて、聞く耳を持たないと思われます。それだけにハラスメントの趣旨、発生した事案の原因と再発防止策を伝えても、腹落ちすることは難しいと思われます。
医師職や看護職管理職には、高度な資格と専門的知識を持っている人は、ハラスメント加害者の意識や感性が似ていて、自分の領域や常識に相容れない者を排除する傾向があり、それがハラスメントを誘引すると説明すべきでしょうか。
最近、病院長による入院患者への回診行為がないのは、それ自体が院長ファーストの考え方であり、帯同するスタッフがハラスメントを感じるからです。優れた病院では、複数の担当医で患者を担当する制度を始めています。セカンドオピニオンを取る必要がない、話しかけやすい方の医師に相談ができるなど、患者側のメリットは大きいことが取り入れた要因だそうです。患者ファーストの考え方だと思います。
社会的な地位が高い人こそ、コンプライアンスの知識レベルは高くあるべきであり、ハラスメントの加害者にならないように絶えず注意する必要があります。こうした人に対して動画視聴研修のみ、講師による一方的な研修などを続けると、院内の慣習や自分の常識こそが正しいコンプライアンスだと誤解することに繋がりかねません。この事件を契機にして、研修の在り方を見直す機会にしましょう。



コメント