2025年5月30日に保険業法の改正案が成立し、1年以内に施行することが決定しました。その概要等につき、保険代理店主向けに説明して欲しいと、ご要望に接しました。ご説明が長くなりますので、数回に分けてご説明します。本日は、保険業法等の改正に至る背景について、ご説明します。
今回のきっかけとなったのは、損害保険会社で起こった二つの事件ですが、その調査過程において、更に改正が必要な項目が明らかになりました。保険会社自体も大なり小なり関与があった事件であることから、保険会社は代理店さんには、詳細に説明しにくいと思われます。それ故、弊社へ説明のご要望を受けたと思われます。
一つは、中古車販売と自動車修理業を兼営している代理店が、修理の水増しや、修理実績を虚偽申告し、保険会社から不正に保険金を詐取していた事件です。調査の過程で、代理店が乗合保険会社に自動車事故車両を当該代理店へ入庫紹介した件数を競わせて、自賠責保険の契約件数を決定していたという便宜供与の実態がありました。
この事件では、① 不正行為を防ぐ体制が兼業代理店で整備されていないかった、② 代理店の立場を利用して不当に乗合保険会社へ便宜供与を要請していた、③ 保険会社が一部大型代理店に社員を出向させるなど、便宜供与を疑わせる行為があった、④ 比較推奨販売義務に則り自賠責保険を付保すべきところ、代理店が不正な競争を誘導して運用していた、⑤ 保険会社の社内に、挙績優先の意識が強かったこと等が、課題として認められました。
二つ目は、大企業のグループ契約の更新手続きにおいて、保険会社の担当者同士が保険料を事前に各社と調整していた事件です。大企業のグループ契約は、リスクが大き過ぎて1社で引き受けることが出来ないため、各社で分担して引き受ける共同保険で引き受けていました。調査の過程で、保険会社が保有している契約者法人の政策保有株式数が、保険料シェアに強く影響していた実態が判明しました。
この事件では、調査の過程で幾つかの課題が表面化しました。① 企業のグループ会社代理店が代理店として十分機能していなかった、② 企業グループ契約のシェア決定にあたり、保険会社が保有している政策保有株式数や、販売協力と呼ばれる便宜供与が疑われた、③ 保険会社の社員が独占禁止法の趣旨や禁止行為を正しく理解していなかった等が、課題として認められました。
この事件を踏まえて、乗合代理店に対する体制整備が不十分であると結論付けました。加えて、保険会社の体制整備も不十分であり、保険会社に対する規制を強化する必要が生じました。こうした背景により、顧客本位の業務運営を再度徹底して、健全な競争環境を担保する観点から、保険業法と保険会社向けの総合的な監督指針を改正するに至りました。
これ以外に、今回の改定に含まれなかった課題もあります。① 政策保有株式の縮減、② 特定契約比率の見直し、③ 情報漏えいの3つです。①は保険会社が政策保有株式をゼロにする自主取組みを開始し、想定より早く縮減している、②は見直し案の運用につき、恐らく詳細まで詰め切れなかった、③は保険会社が代理店への出向制度をほぼ全面廃止とするなど、問題の解決に自主的に動き出したことから、あえて今回の改定には含めなかったと推察できます。
短い言葉で専門用語を最小限にしつつ、今回の改正に至った背景について、ご説明したつもりです。損害保険業界において、どのような事象があり、その調査過程で、どのような課題を見い出したのかについて、概ねご理解いただけたと存じます。より正しく理解したい、自社代理店に対する影響度などにつき、教えて欲しいなどのご要望があれば、本ホームページ上段の「お問合せ」より、ご連絡ください。次回は、改正となる概要について、その目的をリマインドしながらご説明する所存です。



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