損害保険の販売において、契約締結後に保険始期を遡って契約内容の訂正が行われたり、事故発生後に契約内容と説明が異なるという苦情が寄せられたりするケースが見受けられます。
その原因の多くは、契約締結時の「免責事項の説明不足」や「付保意思の確認不十分」にあると考えられます。つまり、契約者が理解しないまま契約を締結してしまう――そのリスクが現場では、一定の頻度で発生する実務上の課題です。
保険会社はこうした事象に対して、代理店に対して再発防止策として「募集人全員への注意喚起」「不適切事例の共有」を求めてきました。ですが、ここで一点、重要な論点が抜け落ちているように感じます。
<乗合代理店は、全ての保険商品を全員が習得できない>
乗合代理店には比較推奨販売義務があり、複数社の商品を横並びで説明し、契約者のニーズに合うものを推奨する必要があります。保険会社側が、自社の商品に関する注意喚起を代理店に求めたとしても、比較推奨販売の現場では、1社の特定商品だけに注意させる優先順位は付けづらく、実効的な注意喚起は困難です。
また、全国の乗合代理店の募集人数は100万人を超えており、従業員・アルバイト・グループ会社間でも構成が異なります。「募集人全員への注意徹底」を現実的に運用することは、極めて難しい課題なのです。
<再発防止の視点を“募集人”から“保険商品”へ>
それではどうすればよいか――私は、再発防止の視点を「募集人の指導」から「保険商品の構造や仕組みの見直し」へと移すべきだと考えています。
〇 保険商品の設計そのものが、間違いや誤認を起こしにくい構造になっていること
〇 免責や補償範囲の説明が、募集人の説明力に頼らず“画面・帳票・フロー”で自然に示されること
〇 契約者が付保意思を示すプロセスに、デジタルや確認項目の工夫が盛り込まれること
総じて申し上げると、契約時に表示されるデジタル画面の注意喚起や、推奨理由の記録・再提示など、商品に紐づく補足機能でミスの芽を摘むアプローチが、乗合代理店の現場には適しています。
<課題解決の主語を“募集人”から“商品設計”へ>
募集人の指導は重要です。しかし、それが実効性を持たない場合、問題の主語を変える必要があります。「どう伝えるか」だけではなく、「何をどのように提供するか」。この視点から保険商品や提供システムの改善が行われれば、乗合代理店の実態に即した再発防止の仕組みが構築できるはずです。
比較推奨販売は、販売者が“複数の選択肢”を示す仕組みです。だからこそ、選ばれる保険商品が「間違えにくく、説明しやすく、納得しやすい」ものであることは、今後ますます重要になると感じています。保険会社は、比較推奨販売を単なる代理店向けの規制と捉えるのか、自社が顧客本位の業務運営を行うための規制の一つと捉えるのかの違いです。「何をどのように提供するか」という観点で、ご説明致しました。本日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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