便宜供与への備え方~社内規則と教育の整備

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前回は、保険会社との関係性の中で起こり得る「便宜供与のグレーゾーン」について、代理店の立場から具体的な事例を挙げて考察しました。 その続編として、保険業法の改正を受けて、代理店がその対策として、社内規則の整備や教育・指導体制の見直しを行う際に考えるべきことを整理してみたいと思います。

<制度改正が求める“体制整備”とは>
2025年の改正では、便宜供与に関する禁止対象が拡大され、保険会社だけでなく代理店側にも「体制整備義務」が明記されました。 特に、以下のような点が強調されています。
 〇 保険会社による便宜供与が、代理店の商品推奨に影響を与えることの防止
 〇 社内規則の整備と、営業部門への教育・指導の実施
 〇 コンプライアンス部門の関与と、監査・報告体制の構築
この改正は、単なる“禁止事項の追加”ではなく、代理店自身が「判断の仕組み」を持つことを求められていると捉えるべきと考えられます。

<社内規則整備のポイント>
社内規則は、「何をしてはいけないか」だけでなく、「どう判断するか」「どう相談するか」を支える仕組みであるべきです。 以下のような観点から、規則の整備を進めることが有効です。
 〇 保険会社からの支援・協力依頼の受付ルール(誰が判断するか、記録の残し方)
 〇 契約紹介・採用支援・イベント参加などの受け方と社内承認フロー
 〇 苦情対応・満期情報収集などの業務分担と境界線の明示
 〇 保険会社との協議記録の保管と、社内共有の方法
 〇 社内通報・相談窓口の設置と運用ルール
ポイントは、「現場が迷わず判断できること」「相談できること」「記録が残ること」です。区分して記載しましたが、大規模特定代理店でなければ、簡素化して作成することで足りると思われます。

<教育・指導体制の見直しポイント>
今回の改正趣旨に鑑みると、営業部門への教育・指導の実施と、コンプライアンス部門の関与が求められていると考えられます。 更に、単なる研修実施だけではなく、“判断の背景”を共有する文化づくりが目的になります。募集人教育については、以下の観点を踏まえて考えてみると良いでしょう。
 〇 事例ベースの研修(「これは便宜供与か?」を考えるワーク)
 〇 社内規則の背景や目的を言語化して伝える
 〇 営業部門とコンプライアンス部門の“対話の場”を設ける
 〇 支援依頼や協議の判断に、複数部門が関与する仕組みをつくる
 〇 定期的な振り返りと、改善提案の受け入れ体制を整える
教育は「伝える」だけでなく、「考える」「相談できる」場であることが重要です。ここまで一度にできない場合には、保険業法と監督指針の当該部分を会議等の場で読み合わせを行い、その趣旨の理解に加えて、これは便宜供与か否かと感じる事象が現場でないかを意見交換することで十分足ります。その記録を残すことで、代理店監査に向けた対策にも通じます。

<まとめ:制度を“現場の判断支援”に変える>
便宜供与のグレーゾーンは、制度だけでは防ぎきれません。 代理店自身が、「どこまでが適正か」「どう判断するか」を支える仕組みを持つことが、信頼される業務運営の第一歩です。

社内規則と教育・指導体制は、現場の迷いを減らし、保険会社との協議を建設的に進めるための土台になります。 次回は、こうした仕組みを「業務マニュアル」や「チェックリスト」にどう落とし込むかについて、さらに実務的に掘り下げてみたいと思います。本日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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