前回のブログでは、カスタマー・ハラスメントへの対応について取り上げました。 その後、「社内で起きるハラスメント」についても考える必要があるという声をいただきました。保険業界の実態を踏まえながら、社内ハラスメントに対する制度設計と相談体制の整備・運用について考えてみたいと思います。
<“見えにくい関係性”の中で起きる>
社内ハラスメントは、必ずしも悪意や暴力的な言動から始まるとは限りません。 むしろ、上下関係・業績評価・人間関係・慣習・価値観の違いといった“見えにくい関係性”の中で、徐々に生じていくことが多いようです。保険代理店や保険会社では、以下のようなケースが報告されています。
〇 社長や役員などによる威圧的な指導や言動(パワハラ)
〇 従業員やスタッフに対する性的な冗談や不適切な接触(セクハラ)
〇 同僚間の排除や陰口、無視(モラハラ)
〇 男女問わず、性的魅力を武器にした関係性の操作(セクシーな言動による圧力)
〇 上司と部下の“近すぎる関係”が不倫や依存に発展し、周囲への圧力となる
〇 飲食の場での言動が、評価・配置・昇進に影響し、職場の信頼を損なう
〇 管理職が部下との関係性を利用して、業務外の要求や心理的支配を行う
こうした事案は、表面化しにくく、相談しづらい構造を持っています。
<なぜ制度設計が必要なのか>
社内ハラスメントは、個人のモラルや感情だけでは防げません。 むしろ、制度と仕組みで“声を上げられる環境”を整えることが、最も効果的な予防策になります。制度設計の目的は、以下の3点に集約されます。
〇 対応と改善の仕組み化:相談後の対応、記録、再発防止策までを一貫して運用する
〇 判断基準の明確化:何がハラスメントに該当するかを、曖昧にせず明文化する
〇 相談ルートの整備:誰に、どのように相談すればよいかを、安心して選べるようにする
<相談体制の整備と運用のポイント>
制度を“使える形”にするには、例えば、以下のような工夫が必要です。
1.相談窓口の複線化
〇 上司だけでなく、コンプライアンス責任者、外部相談機関、匿名フォームなど複数の選択肢を用意
〇 営業職員や募集人が「直属の上司には言いづらい」と感じる構造に配慮
2.記録と対応の透明化
〇 相談内容は、本人の意向を尊重しつつ記録し、対応履歴を残す
〇 対応結果は必ず本人にフィードバックし、納得感を得られるようにする
3.再発防止と制度改善の循環
〇 研修や朝礼などで、事例共有と考える時間を設ける
〇 対応事例をもとに、制度やルールの見直しを定期的に行う
<“守る文化”を制度で支える>
ハラスメント対策は、単なる禁止事項の列挙ではありません。 それは、人や働く環境を守る文化を制度で支えることです。
〇 役員・従業員・スタッフが「安心して働ける」と感じること
〇 管理職が「育成と支援に集中できる」環境をつくること
〇 取引先企業や個人と、「対等なパートナー」として協働できる関係性を築くこと
こうした文化が根づいてこそ、ハラスメントを防ぐ取組みに繋がり、ハラスメントが起きにくい職場や企業を作り上げることで、業績や制度の改善も持続可能なものになります。
<まとめ>
社内ハラスメントは、見えにくく、語りにくく、相談しづらいものです。 だからこそ、制度設計と相談体制の整備・運用が、組織の信頼と安心を支える土台になります。社内における見えにくい課題に対して、制度で光を当てるのは、経営者の役割です。
次回は、実際の制度設計例や、相談体制のテンプレートについて、さらに掘り下げてみたいと思います。 本日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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