過度な便宜供与の具体例

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2025年8月末、金融庁は「保険会社向けの総合的な監督指針」を改正しました。 今回の改正では、顧客本位の業務運営をより実効性あるものとするために、保険会社と代理店の関係性に関する項目が強化されました。 中でも「過度な便宜供与」という新たな視点は、保険代理店や募集人にとって、自助努力と自律性が一層求められる内容となっています。本日は、生保・損保別に、過度な便宜供与とは何か、具体的な事例と判断の視点を交えて考えてみたいと思います。

<生命保険における便宜供与の例>
生命保険会社では、代理店支援の名目で業務が行われることがあります。 しかし、以下のようなケースは、代理店の業務能力向上や体制強化を妨げるものとして、過度な便宜供与と捉えられる可能性があります。
 〇 教育的な観点がないまま、一般的な個人顧客の同行支援を恒常的に行う
 〇 業界共通知識に関する講師を保険会社が担い、それが常態化している
 〇 基礎知識レベルの質問に対し、社員が確認・回答することが常態化している
   基礎知識レベル=一般過程テキスト・パンフレット・規程集に記載された内容
 〇 システムに不慣れな募集人に、教育的目的を考慮せず、設計書や申込書を代行作成
 〇 相続案件や法人提案等の頻度が少ない対応において
   品質向上の視点なく、依頼通りに設計書・申込書を代行作成する
   代理店や営業職員の代わりに、社員が単独で提案を行う
これらは、代理店の自立性を損ない、顧客対応の質や説明責任を歪めるリスクがあります。

<損害保険における便宜供与の例>
損保では、事故対応や契約更新など、保険会社との連携が日常的に発生します。 その中で、以下のような便宜供与が問題視されます。損保では、保険料算出に関する業務が委託契約書に明記されているので、原則、代理店が自ら算出しなければなりません。但し、例外として、大規模な物件や特殊な危険保険料は、代理店算出不可と保険会社が定めている場合があります。
 〇 保険会社社員が代理店に常駐・出向し、実質的に業務を代行する
 〇 事故対応において、代理店の顧客に対して特別な配慮を行うよう依頼される
 〇 代理店の広告費や販促費を保険会社が肩代わりする
 〇 保険会社の担当者が、代理店の営業活動に同行し、契約獲得を支援する
保険会社が保険料を算出することが常態化している場合、代理店の業務能力向上や体制整備を妨げる結果となり、便宜供与と見なされる可能性があります。 教育・管理・指導の範囲を超えていないか、業務品質の確保・向上の観点があるか、代理店の自立化を阻害していないか――こうした視点で判断されます。

<過度の判断基準>
過度な便宜供与か否かを判断する際には、以下のような視点が重要です。
 〇 保険会社として業務運営上の必要性があるか
 〇 提供の期間や反復性が過剰でないか
 〇 特定の代理店のみへの提供になっていないか
 〇 教育・管理・指導の範囲を超えていないか
 〇 業務品質向上の観点があるか
 〇 代理店の自立化を阻害していないか
これらの視点を踏まえ、保険会社と代理店双方が「顧客本位の業務運営」を実現するための関係性を築くことが求められています。

<まとめ>
「過度な便宜供与」という新たな視点は、保険会社と代理店の関係性を問い直す契機となります。 生損保それぞれの業務特性や委託契約の違いを踏まえつつ、代理店が自立・自律・自走できる体制を整えることが、顧客本位の業務運営の実現につながります。 次の機会があれば、改正を踏まえた代理店の体制整備について、さらに掘り下げてみたいと思います。 本日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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