世界最大のモーター製造企業が、最大2,500億円規模の減損可能性を発表し、経営陣が辞任する事態となりました。イタリア子会社が発端とされていますが、会計業務は本社主管業務ですから、これは組織の構造と文化が生んだ不正と捉えるべき事案です。企業の不祥事は、現場の暴走や一部社員の倫理観の欠如だけで起きるとは限りません。むしろ、組織の仕組み・文化・権限の設計ミスが積み重なった結果として生じます。
1.権限委譲の“誤解”
企業は、事業規模が大きくなるほど、経営トップがすべての決定を行うことはできません。そのため、担当役員や部署長へ権限を委譲し、現場で判断できる仕組みを整えています。しかし、この権限委譲が以下のように“誤解”されることがあります。
〇 「この程度なら自分の権限で処理できる」
〇 「後で帳尻を合わせれば問題ない」
〇 「経営に知られたら評価が下がる」
〇 「自分で回復できる範囲だから報告しなくていい」
本来、権限とは“説明責任の範囲”であり、決して“ごまかしの裁量”ではありません。しかし、権限を持つ立場ほど「自分で何とかしなければ」という心理が働き、小さな事実隠しが積み重なり、やがて大きな不正へとつながります。今回の事件も、まさにこの構造が海外子会社で顕在化したものと考えられます。
2.「上司への恐怖」が沈黙の文化を生む
権限を持つ役員や部署長は、上司からの評価を強く意識します。
〇 ダメ出しされれば、昇進が止まる、もしくは自分の立場が危うくなる
〇 「問題を起こした人」と見られる
こうした恐れがあると、「報告しない方が自分と組織のため」という心理が働きます。その結果として、
〇 問題が小さいうちに報告されない
〇 現場で抱え込む
〇 ごまかしが常態化する
〇 組織が“沈黙”する
という悪循環が生まれます。沈黙の文化は、不正の最大の温床です。
3.KPIへのプレッシャーが“ごまかし”を正当化する
今回の企業はグローバル企業であり、成果を強く求められる環境にあります。KPI(重要業績指標)が厳しく設定されると、現場は次のように考えがちです。
〇 「数字を達成しなければ評価されない」
〇 「多少の調整は仕方ない」
〇 「会社のためにやっている」
こうして、“ごまかし”が組織の論理として正当化される 状態が生まれます。これは今回の企業に限らず、多くの企業で起き得る構造的リスクです。
4.内部通報が機能しない組織も危険
今回の事件でも、内部通報制度が十分に機能していなかった可能性が指摘されています。
〇 通報しても調査されない
〇 通報者が不利益を受ける
〇 「言っても無駄」という空気がある
こうした組織では、不正は必ず大きくなります。内部通報制度は“仕組み”だけでは機能しません。「通報しても大丈夫」という文化が必要です。
5.経営者が学ぶべき3つのポイント
① 権限委譲は“説明責任の委譲”であると明確にする
権限=自由ではなく、権限=説明責任の範囲であることを組織全体で共有しておく必要があります。
② 「早期報告を評価する文化」をつくる
ダメ出し中心のマネジメントは、沈黙を生みます。報告の早さを評価する文化が、不正の芽を摘みます。
③ 小さな“ごまかし”こそ許さない
「この程度なら」「後で修正できる」こうした思考が積み重なると、今回のような大規模不正につながります。
<まとめ>
不正は現場の問題ではありません。権限委譲の誤解、沈黙の文化、KPIプレッシャーが生む構造的な問題の可能性が高い。経営者が変えるべきは「仕組み」と「文化」であり、今回の事件は、どの企業にも起こり得ると認識すべきです。単なる会計不正ではなく、 組織の構造と文化が生んだ必然的な結果と捉えるべきです。読者の皆さまの組織でも、同じ火種が潜んでいないか── ぜひ一度、見直していただければと思います。



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