損保4社に報告徴求命令

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金融庁が、顧客情報を漏えいした問題で損保4社に対し、保険業法に基づく報告徴求命令を発出しました。本日は、この問題に関する課題について、コメントします。

当初は、複数の保険会社を取り扱う代理店にて、契約の満期情報を記載したファイルを代理店内向けに送信する際、各保険会社の担当者に写しメールに入れたことから、保険会社の担当者に他社契約が見える状況になっていた過失事案でした。

複数の保険会社を取り扱う代理店の多くは、本社から出先拠点向けに発信するメールの写しに、保険会社担当者を入れるという商習慣がありました。保険会社の担当者に他社の契約情報が見えてしまうという事象に気付かずに常態化していましたが、保険会社の担当者が、他社の契約情報を使って事業活動を行うことは、ありません。今回は、この事象に気づいた保険会社社員の指摘で、情報漏えい事案として公表したと思われます。

しかし、今回の報告徴求命令には、保険会社から代理店への出向者と、保険会社からの出向転籍者が、他社契約情報を出向元会社へ提供したという事象が、含まれています。

出向者とは、保険会社に籍を置いたまま、代理店へ出向する形態です。保険会社から見ると、代理店内のデリケートな情報が、出向者を通じて入手できるメリットがあります。代理店との間で、守秘義務を締結していると思われます。

出向転籍者とは、一定期間後に保険会社を退職して代理店へ転籍する形態です。これは、保険会社側は従業員コストの削減メリットがあり、代理店側は保険スキルに長けた従業員を中途採用できるメリットがあり、win-winの形態です。

出向者は、保険会社に所属しているので、他社情報を取得して自社へ提供し、他社契約の満期時に自社で攻略するという作戦を考えることは、あるかも知れませんが、当該行為はスパイ活動であり、個人情報保護法違反、意向把握確認義務違反であることは、十分に理解しているはずです。

出向転籍者は、転籍前の保険会社への所属意識は低いことから、自らが所属している代理店の利益にならないことはしないはずです。仮にあるとすれば、転籍前の保険会社の営業担当者と、個人的に結びつきがあるケースだけでしょう。

しかし、いずれの場合でも「そうでない人」は、一定程度は存在します。当人は、出向元会社の利益に通じる活動は、業務上は正しいと考えた可能性があります。一方で、法令遵守やスパイ行為の疑いが頭によぎれば、自制したと思います。

裁量のある募集人であれば、他社へ契約情報を提供すれば、より良い補償内容をご提案できると説明するでしょう。意向把握確認義務については、正しく説明することは、理論上は可能です。

ただし、それを保険会社の出向者が行うなら、お客様、代理店、保険会社の利益が相反するので、正しい行為をしても、正しくない行為になります。冷静に考えれば、保険会社の社員なら誰しも理解できる話ですが、営業現場、それも代理店さんへ出向している環境下においては、正しい判断が出来なかった可能性があります。

出向期間中は、出向先会社の管理下にありますが、所属意識の薄い出向者の活動に歯止めをかけることは、現実には難しいと思われます。保険会社も、出向前研修にて教える範囲と時間は限られ、出向中に起きる事象を網羅するのは難しいと思われます。これを機に、保険会社は出向者の運用を見直すことが求められるでしょう。

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