将棋の藤井聡太さんが、前人未到の“八冠”を達成しました。開始から10時間を経過し、一手1分勝負となった場面。藤井さんの122手目の5五銀で、AIの評価値は「99%」永瀬拓矢王座の勝ちでしたが、永瀬さんの123手目の5三馬が「悪手」の評価で一気に勝率9%まで落ち、藤井さんが逆転勝ちしました。永瀬さんにとっては、痛恨の一手でした。本日は、痛恨の一手について、考えてみます。
解説者曰く、藤井さんは、5五銀を差し出して「どうぞ勝ってください、ただ、打ち手を間違えると逆転しますよ。」と言う趣旨だそうです。将棋に詳しくない私ですら、その場面の棋譜を見ると、永瀬さんが藤井さんの「王」の前に金を打てば、勝負ありと分かりました。
ただ、開始から10時間を過ぎて疲労が蓄積し、一手1分勝負で時間的余裕もなく、かつ負ければタイトルを失うという場面です。加えて、相手が藤井さんであることを考えると、永瀬さんが受けた圧力は、相当大きいものだったはずです。
ハラスメント研修では「シニアの方が、お金を持っているのにスーパーで万引きしたり、経験豊かな高齢者が、運転ミスを起こしたりします。自分の体や心について十分に理解しているつもりでも、衰えがあったり誘惑があったり、魔がさしたりすることがあります。」とご説明しています。今回のケースは、まさに「魔が差した」に等しいでしょう。
その証左に、藤井さんの師匠の杉本八段が「本人もすぐに気付いたはず。一手1分だから秒読みの時は見逃してしまったが、指した瞬間ににこっちが正解だったってわかるが取り返しの付かないミスになってしまった。あれが勝敗を分けた」と言っています。永瀬さんも、打った直後に頭を抱え、髪を搔きむしって悔しがりました。藤井さんは、次の一手を間違うことなく、逆転勝ちをしました。
企業経営や業務運営においても、同様の事象が起こります。経営判断を迫られた際、自分の判断に反対意見を言ってくれる人がいるか否かが、成否を分けることがあります。保険会社の経営会議において、代表取締役が世間では考えられない判断をしたことが分かり、退任する事件が起きました。経営会議メンバーの中に、反対意見を述べる人がいなかったから起こった悲劇です。
そういう環境がない企業経営者は、経営リスクを抱えています。このリスクを避けるには、日頃から会議で反対意見を述べる人を否定しない、会議と言うより意見交換の場として経営会議を運営する、社外に相談できる人を作るなどの対策があります。特に中小企業の経営トップには、自分自身という経営リスクがあることに気づかないと、永瀬王座のような悔しい想いをしてしまうことがあります。対策を講じておきましょう。



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