便宜供与の“グレーゾーン”を考える

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前回の記事では、保険会社による過度な便宜供与の問題を取り上げました。 今回は視点を変えて、代理店側から見た便宜供与のグレーゾーンについて、具体的な事例と制度改正の背景を踏まえて考察します。

<制度が示す「便宜供与」の懸念とは>
2025年5月に公表された金融庁の監督指針改正案では、以下文言が盛り込まれました。
 「特定の保険募集人に対する過度の便宜供与等の過当競争の弊害を招きかねない行為の防止」
 「便宜供与の実績に応じて特定の保険商品を推奨する事態を誘発し、顧客の適切な商品選択の機会を阻害するおそれがある」
この改正は、保険会社の行動だけでなく、代理店からの要望や期待が“過度な依頼”と見なされるリスクにもつながります。

<代理店タイプ別:現場で気になる便宜供与の境界線>
1.専業代理店のケース
 気になる支援内容:
 〇 保険会社からの契約紹介(法人・個人問わず)
 〇 募集人採用への支援(人材紹介・面接同行・研修代行など)
リスクと制度上の懸念:
 〇 改正案では「公平性の確保」「業務の独立性」が明確に求められている
 〇 契約紹介が特定代理店に偏ると、他代理店との競争環境が不公平に
 〇 採用支援が実質的な業務代行と見なされると、独立性が損なわれる
2.企業の機関代理店のケース
 気になる支援内容:
 〇 団体契約・団体扱い契約の募集支援(社内周知・説明会開催など)
 〇 満期情報の収集支援(保険会社によるターゲットリストの提供・収集業務の代行)
 〇 大口契約の更新時における補償内容見直しの提案支援
 リスクと制度上の懸念:
 〇 募集支援が“囲い込み”と見なされると、顧客の選択機会を阻害
 〇 ターゲットリストの加工業務や、保険会社社員に満期情報収集を依頼する行為
 〇 補償見直し提案が特定代理店に偏ると、推奨誘導の疑念を招く
 改正案では「顧客本位の業務運営」「推奨誘導の防止」が焦点
3.自動車販売修理業を兼営する代理店のケース
 気になる支援内容:
 〇 事故車両の自社修理工場への誘導支援(保険会社からの案内)
 〇 比較推奨販売義務の運用支援(説明補助など)
 〇 イベント等への保険会社の参加・応援・費用負担
 リスクと制度上の懸念:
 〇 修理工場への誘導が“特定業者への便宜供与”と見なされる可能性
 〇 比較推奨販売の支援が“特定商品の推奨誘導”に転じるリスク
 〇 イベント支援が業務目的を逸脱すると、過当競争の温床に
 〇 改正案では「公平性」「顧客の選択機会の確保」が強調されている
乗合保険会社を競わせる行為は、特にリスクが高いと考えられています。

<まとめ:代理店の“要望”が制度リスクに転じる瞬間>
代理店として「支援してほしい」「協力してほしい」と思うのは当然のことです。 しかし、その要望が「公平性を損なう」「他代理店とのバランスを崩す」「顧客の選択機会を狭める」といった結果を招くと、制度上のリスクに転じます。

当面は、君子危うきに近寄らずという格言が望ましい対応と思われます。保険会社に対して支援や要望があれば、公平性、他の契約者や代理店とのバランス、顧客本位の業務運営か否か、比較推奨販売等の保険業法に抵触しないかという観点で自社で考えてから、保険会社に違法性がないかを確かめていくという業務フローが必要です。

制度改正は、代理店にとっても「支援の受け方」「要望の出し方」を見直す機会です。 次の機会には、こうした視点を踏まえた「社内ルールの整備」や「保険会社との協議の進め方」について、実務的に掘り下げてみたいと思います。本日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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