大手保険会社からメガバンクへ出向していた者が、銀行内で得た顧客情報を出向元の担当部署へ送信していた旨の報道がありました。本日は、出向者による情報漏えいについて、考えてみます。
報道によると、送信した情報は、銀行端末から得た顧客情報、住宅ローン契約者情報、販売額、デジタルトランスフォーメーション施策に関する業務資料、同業他社の動向の模様です。
過去にも、保険会社の出向者が出向元へ顧客情報を送信したと報道がありましたが、今回は、それとは異なる要素があります。本件は、個人情報保護法の顧客情報漏えいに該当する以外に、不正競争防止法の営業秘密に該当する可能性があります。
営業秘密とは、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たすものを指します。顧客情報、住宅ローン契約者情報、販売額、デジタルトランスフォーメーション施策に関する業務資料は、銀行内で秘密管理されており、外部に公開を禁止している社外秘情報です。実際に、保険会社が事業活動に活用できるとは思えません。なぜなら保険は直接顧客へ保険を販売する仕組みではなく代理店経由だからです。
なお、同業他社の動向は有用性はありそうですが、銀行内で秘密管理しているとは思えないので、要件に該当しない可能性があります。最終的には、監督官庁による判断によります。
営業秘密に該当した場合、不正競争防止法の第2条 第1項 第7号~第9号のいずれかまたは全部に抵触する可能性が高いそうです。罰則は、行為者個人には懲役・罰金のいずれかまたは両方、法人には罰金が科されることになります。
対策としては、出向者に対して、出向したことで得られた情報、特にアクセス権限を得た人のみ閲覧できる情報や、出向先に所属しないと得られない情報は、出向元へ伝えてはならないと教えることです。保険会社が直接相手先企業から得られず、出向者からは得られる情報は、営業秘密に該当する可能性が高いはずです。
もう一つの対策は、営業上に利益が生じる出向を行わないことです。一連の報道を見る限り、保険会社から出向する人は、営業センスを持つ人が多いことから、目の前に外部から知れない情報があれば、出向元と共有しようと考えやすいからです。
そもそも、取引先への出向者を送り込むことは、相手の懐に入ることであり、スパイ行為を疑われる可能性があることを知るべきです。「この程度なら大丈夫は、法令違反の入口」であり、危険と紙一重の場所にいることを教えておくべきです。一連の報道により、保険会社の信頼はかなり落ちたと思われます。講じた再発防止策を積極的に開示していくことで、信頼回復に繋げて欲しいと思います。



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