信用組合による不正融資

phrase on the wall

信用組合にて、顧客名義の口座を無断で偽造して、架空の融資を行う形で資金を流出させ、大口取引先への融資が不良債権化するのを隠そうとしていた疑いがある旨、報道がありました。本日は、本件について、考えてみます。

報道によると、この不正融資は信用組合内では「B資金」と呼ばれ、口座偽造は本店で行われ、10年以上も続いていたそうです。金融機関が組織的に口座を偽造し、架空融資で経営状態を装う不正は極めて異例です。金融庁が調査するとみられます。

今回のように、社内でしか出来ない行為で、組織的な犯罪行為が行われている場合は、完全なクローズド犯罪です。その行為に新たに加わる従業員、または行為に介在していない従業員が通報するしか、発覚する手段はありません。

こうした事件が起こる背景には、内部統制の弱さ、監査体制の不備、職員の倫理感・職業倫理の欠如、組織文化や管理職のリーダーシップ不足などが考えられます。特に、社内監査部署が監査した際、印鑑証明書がない、新規口座開設直後に融資を行っているなど、不自然な点が多かったはずであり、気付く機会はあったと思われます。

そういった不自然な対応を見逃がすと、大きな事件に発展します。不正融資を実行していた支店においても、リスク感応度が高い従業員ならば、既存顧客が新たに口座を新設し、その直後に融資が行われているという不自然さに気づくはずです。

最近は、金融機関に属する企業において、従業員モラルの欠如、業務上の不正行為、不適切な情報管理などを見逃している事件が、多発しています。他社の事例と切り捨てずに、自社に置き替えて同様な事象の発生がないか、発生の兆しがないか、発覚機会の放置がないかという観点で、考えたり意見交換したことがあるでしょうか。

経営者は、他社で起きる事象は自社で起きない理由がないと考える習慣が必要です。業務上の異常事象を課題と認識せず解決策を講じない、この程度なら大丈夫と考えて見逃がす、以前もあったが特段に問題が生じていないとみなす、業界の商習慣と置き換えてしまうことは、ないでしょうか。

リスク事象や発覚の兆候を見逃がし、課題を長期間解決しないと、いつの間にか大きな事件になり経営に影響を及ぼします。「一事が万事」という諺を思い出し、社内に警鐘を鳴らして、異常事象やリスクのある事象を導き出す取組みは、健全な倫理観とリスク認識を養います。コンプライアンス経営は、こうした平時の取組みから社内文化として根付いていきます。

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